若い頃の私は、絵には世界を変える力があると信じていました。
しかし、度重なる大きな災害などを前に、自分の絵に何ができるのか分からなくなり、一度、筆を置きました。
自然の中に答えを求めて、北海道の山奥で二人の子どもを育て、命と身体を育む発酵菓子工房てんねんやを営みながら、土を耕し、森とともに暮らしてきました。
利き腕の骨折や事故によって、それまでと同じ働き方を続けることが難しくなったとき、私はあらためて「今の私に何ができるだろう」と考えました。
そのとき、長年撮りためてきた氷紋の写真に心が動きました。
厳冬期、早朝の窓辺で、自然は誰にも気づかれなくても、朝には消えてしまう美しい氷の作品を生み続けていました。
大自然は、こんなにも素晴らしいものを見せてくれている、と感動した時
「箸を持てるなら、筆も持てる」
そう思い、私はもう一度、絵を描き始めました。
今の私にとって絵を描くことは、賜った役割だと感じています。
まだ悲しみの多い世界を美しいもので満たし、大自然からいただいた光を絵に宿して、人の暮らしへ届けること。
私たちは、生きるために必要なものを大自然からいただいている。そのことを、作品を通して伝えること。
そして、これまで私が沢山の人や自然からいただいてきたものを、次の誰かと未来へ返していくこと。
それが、私が再び筆を持ち、芸術の力を信じて画家として生きる理由です。